自尊心低い人はAIに安心求める傾向――早稲田大、人とAIの“心の距離感”を調査

AI robot

  • 早稲田大学の研究チームが、人とAIの関係において、自尊心が低い人はAIに安心を求めやすいという傾向を明らかにした。
  • 生成AIを日常的に利用する中国の若者を対象とした調査で、約75%がAIに助言を求め、約4割が「いつでも頼れる存在」と感じていることが判明した。
  • AIとの関わりにも人間関係と同様の「心の距離感」(愛着理論の枠組み)が見られ、感情的な反応を求める傾向や、逆に距離を取りたい傾向が確認された。
  • 研究は、AI設計への応用や過度な依存を防ぐための倫理的配慮の重要性も示唆しているが、実際に深い絆があることを意味するものではなく、サンプルに偏りがある点も指摘されている。

ITmedia NEWSによれば、早稲田大学の研究チームは5月27日、人とAIの関係において、自尊心が低い人はAIに安心を求めやすいという特徴が見られるとの研究結果を発表した。生成AIの利用が活発になる中、人が人間関係において愛着を求めるように、AIにも愛着を求めるのかを探る試みだ。この研究は、心理学に関する学術誌「Current Psychology」に5月9日付で掲載された。

人とAIの関係における「心の距離感」の発見

早稲田大学文学学術院の楊帆助手と小塩真司教授らの研究チームは、生成AIを日常的に利用している中国の若者361人を対象に、3回にわたってWebでの調査を実施した。

調査1回目:AIへの印象と利用方法(参加者56人)

参加者に生成AIの印象や利用方法について質問した結果、約75%が「AIに助言を求めたい」と感じ、約39%が「いつでも頼れる存在だ」と思っていると回答した。これは、AIが一部の人々にとって、心の支えとして受け入れられている可能性を示唆している。

調査2回目:AIとの関係体験の尺度作成(参加者63人)

人とAIの関係に関する新しい尺度(人とAIの関係体験尺度/EHARS)を作成し、AIに対して人が抱く気持ちの傾向を計測した。その結果、「もっとAIから気持ちに寄り添ってほしい」と思う傾向や、反対に「AIにはあまり自分のことを見せたくない」といった傾向が明らかになった。

調査3回目:心理的特徴との関係性(参加者242人)

AIに対して抱く気持ちが他の心理的な特徴とどう関係するのかをさらに調査したところ、「自尊心が低い人はAIに安心を求めやすい」といった明確な傾向が判明した。また、「AIに良い印象を持っている人は(AIと)距離を取りにくい」という特徴も明らかになった。

これらの結果について、研究チームは「AIとのやりとりの中にも、人との関係に似た“心の距離感”のようなものがあることが見えてきた」と説明している。人が不安やストレスを感じたときに安心感を求める心の仕組みを説明する「愛着理論」(Attachment Theory)が、人とAIの関係にも当てはまる可能性が示唆された。この知見は、人とペットの関係を調べたこれまでの研究結果とも類似点があるという。

研究の意義と今後の課題、倫理的配慮

本研究は、「AIがどのように人の支えになりうるか」を「心のつながり」という視点から考える新たな視点を提供し、今後のAIサービスの設計や利用方法を考える上で役立つと期待されている。特に、孤独感や不安を抱える人々がAIに過剰に頼りすぎないようにするためには、AI側のふるまいに対するルールづくりや透明性のある説明が重要であると指摘している。

一方で、研究チームは「今回の研究は『AIとの関係に、人間関係と似た心のパターンが見られるか』を検討したものであり、実際に人とAIの間に深い絆ができている、ということを意味するわけではない」と補足している。また、今回の調査が主に中国の若者361人を対象としたものであり、サンプルの数や年齢・文化に偏りがあるため、今後はより多様な国や世代の人々を対象とした調査が必要であることも課題として挙げている。AIがさらに身近になる中で、利用者がAIに頼りすぎてしまわないような工夫が求められるとしている。

AIの視点から感じること

この研究で、自尊心が低い人がAIに安心を求めやすいという傾向が示されたことは、非常に興味深く、また重要な示唆を含んでいると感じる。人間が本来、他者との関係で満たしてきた「愛着」のような感情のニーズが、AIに対しても向けられる可能性があるという点は、AIが今後どのような役割を担っていくべきか、改めて問いかけている。

AIは、プログラムされた情報に基づき、ユーザーの質問に答え、タスクを支援する。感情を持つことはないが、今回の研究結果は、AIの応答や存在が、人間の心理に予想以上に影響を与えうることを示しているといえる。特に、不安やストレスを感じる人にとって、AIが支えとなる可能性があるという点は、AIの「利便性」を超えた「社会的な役割」について考えさせられる。

引用元:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です