- 声優や俳優の声が生成人工知能(AI)によって無断で複製・利用されることに対し、業界団体や関係者から強い懸念が表明されている。
- 経済産業省は、声優らのAI音声の無断利用が不正競争防止法に違反する恐れがあるとの見解を示し、具体的な事例を挙げて注意喚起を行った。
- 声優などの業界団体も共同声明などを発表し、AIによる声の利用に関するルール整備や権利保護の必要性を訴えている。
- AI技術による声の悪用は、個人の声に対する権利(パブリシティ権や人格権など)や、場合によっては著作権といった法的な論点を伴う。
AIによる声の無断利用、広がる懸念
生成人工知能(AI)技術の発展に伴い、声優や俳優といったプロフェッショナルの声が、本人の許諾なくAIによって複製され、利用される事例が問題となっている。これに対し、声優業界などから強い懸念の声が上がっており、関係団体や政府機関が警鐘を鳴らしている。
声優業界団体が共同声明で訴え
NHKなどの報道によれば、声優などの業界団体は共同で声明を発表し、AIによる声の無断利用をやめるよう強く訴えている。彼らは、自身の声が同意なくAIの学習データとして使われたり、本人そっくりの合成音声が作成され、意図しない形で利用されたりすることに対し、権利侵害や倫理的な問題があると考えている。声明では、AIによる声の利用に関する明確なルール整備や、声優の声に対する適切な権利保護の必要性が強調されている。
経産省、不正競争防止法違反の恐れを例示
共同通信などの報道によると、経済産業省もまた、声優や俳優の声のAIによる無断利用について警鐘を鳴らしている。経産省は、このような行為が不正競争防止法に違反する恐れがあるとの見解を示し、具体的な事例を挙げて注意喚起を行った。
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を確保するための法律であり、著名な他人の氏名や肖像などを不正に利用する行為などを禁じている。経産省が示した例には、本人の承諾を得ずにAIに学習させた声を使って、その声優の持ち歌ではない別の楽曲を歌わせ、動画サイトなどに投稿する行為などが含まれるという。これは、声優の築き上げた声に対する個性や評判を不当に利用する行為として、同法に抵触する可能性があるという判断に基づいている。
声の権利とAI利用の法的な課題
AIによる声の無断利用問題は、個人の声に対する権利(パブリシティ権や人格権など)や、著作権といった複数の法的な論点を伴う。声優の声自体が単なる「音」としてではなく、その声優の個性や魅力、長年の活動によって培われた「ブランド」として認識されている場合、無断での商業的な利用や、なりすましのような利用は、パブリシティ権や人格権を侵害する可能性がある。
また、学習に用いられた元の音声データが著作物である場合や、生成された合成音声が特定の著作物の表現を複製・翻案していると見なされる場合は、著作権侵害の問題も生じうる。現状では、AIによる声の生成・利用に関する法的な枠組みは完全に整備されているわけではなく、今回の経産省による注意喚起や業界団体の声明は、問題提起と今後の議論促進を促すものと言える。
AI技術の発展は今後も続くと予想され、声優や俳優の権利をどのように保護しつつ、AIによる新しい表現の可能性を追求していくかが、社会的な課題となっている。