創薬にAI活用、治験期間3割短縮の可能性:成長する医薬品開発AI市場の現状と展望

Medical Chatbot AI

  • 製薬業界は研究開発費の高騰に直面しており、AIを活用した創薬プロセスの効率化が急務となっている。
  • AI導入により、創薬期間の短縮や治験期間の最大30%短縮が見込まれ、新たな治療薬を迅速に患者に届ける可能性を秘める。
  • CBインサイツの分析によると、医薬品開発AI市場は活況を呈しており、特に「創薬エンジン」への投資が牽引役となっている。
  • 「臨床開発」向けAIツールは商業的に成熟している一方、「前臨床開発」向けは新たな投資機会が集中する新興分野である。

高騰する開発費、AIで効率化図る製薬業界

製薬会社は、医薬品の開発費用が数十億ドル規模にまで膨れ上がり、研究開発費が1980年代の10倍に増加。現在、各社の売上高に占める割合は約25%と、2000年代初めのほぼ2倍に達している。こうしたコスト圧力を受け、各社はAIを活用し、研究開発の効率化を加速させている。これにより、有望な新薬候補の迅速な特定と評価が可能となり、開発に進む治療薬の選択に影響を与えているのが現状だ。

AIを活用することで、創薬プロセスを数年短縮し、治験の期間を最大30%まで縮める可能性がある。これは、新たな治療薬を患者へ速やかに届け、画期的な治療法を解明し、さらに個別化された治療を可能にするものと期待される。AIの能力を有効活用する企業は、スピード、精度、画期的な発見において決定的な優位性を確立するだろう。

CBインサイツのリポートでは、AIを活用して医薬品を開発している27カテゴリー、225社の企業を分析し、その市場マップを提示している。

臨床開発向けAIは成熟、前臨床開発は成長初期段階

医薬品研究開発におけるAIの導入はまだ日が浅いが、その導入ペースは部門によって異なる。「臨床開発」向けAIツールは「前臨床開発」向けよりも商業的に成熟している。CBインサイツの商業成熟度スコアによると、「臨床開発」分野で成熟段階(5段階中4の「拡大」または5の「確立」)に達している企業は37%に上るが、「前臨床開発」ではわずか7%にとどまる。レイトステージ(後期)の資金調達額も同様の傾向を示しており、2023年以降に資金調達した臨床開発企業のうちレイトステージの割合は9%だったが、前臨床開発企業ではわずか3%だった。

医薬品研究開発でのAI導入ペースが部門によって異なるのは、その特徴に起因する。臨床開発のAI製品・サービスは既存の医療テックインフラ上に構築されることが多く、導入しやすい。一方、創薬でのAI活用は、有効性が証明されていない分子をゼロから開発するため、投資リスクが高い。また、3段階の開発プロセスの中間に位置する前臨床開発は、より専門的な製品・サービスを提供し、規制当局の厳しい審査を受けるため、勢いは増しつつも進歩は緩やかだ。この違いは投資家にとって重要であり、臨床開発企業は比較的短期間で高リターンをもたらす可能性がある一方、新興の前臨床開発は先行者利益を確立する機会を提供する。

創薬エンジンが投資を牽引、市場は回復基調

医薬品研究開発AIのエクイティ(株式)による調達額は、2021年から2023年にかけて前年比減少が続いていたものの、2024年には38億ドルと前年の30億ドルから増加し、新型コロナウイルス感染症流行前の水準(2019年は27億ドル)を大幅に上回った。2025年もこの勢いは継続しており、このペースが続けば2024年の調達額に匹敵する見通しだ。特に英アイソモルフィックラボが2025年3月のシリーズAで6億ドルを調達したことが大きく寄与している。

2024年の調達額が最も多かったカテゴリーは「創薬エンジン」で、「AIを活用したバイオ医薬品」が16億ドル、「AIを活用した低分子薬」が10億ドルを調達した。このカテゴリーの企業は治療薬開発や治験実施に多額の資金を必要とし、投資家がAIによる創薬期間短縮の可能性に戦略的に賭けていることを示唆する。注目株である米エンベダは、2024年11月のシリーズCで1億3000万ドルを調達し、2025年2月には仏製薬大手サノフィから2000万ドルの投資を受け、そのプラットフォームへの強い評価を得た。

創薬エンジン以外では、「量子コンピューティング・プラットフォーム」が3億7600万ドルを、「分散型治験プラットフォーム」も1億2900万ドルを調達した。分散型プラットフォームは経営統合の波にさらされ、2024年だけで5社が買収されるなど、統合が進む傾向にある。

成長を牽引する患者募集プラットフォームと治験管理システム

CBインサイツのモザイクスコア(未上場企業の健全性と成長性を測る独自指標)によると、医薬品研究開発AIの3つの段階で最も勢いのあるカテゴリーは、「創薬」では量子コンピューティング、「前臨床開発」では医薬品開発戦略&コンプライアンス(法令順守)プラットフォーム、「治験」ではEHR(電子健康記録)に基づく患者募集プラットフォームである。

特に「EHRに基づく患者募集プラットフォーム」は平均モザイクスコアが716点(1000点満点中)と最も高く、「治験管理システム」は前年比150%増と調達件数の伸びが最も大きかった。これらの分野は、医薬品研究開発AIにおいて注視すべき高成長分野として挙げられる。

有望カテゴリーの一部の企業はすでに大きな進歩を遂げている。米サンドボックスAQは量子コンピューティング分野をリードし、AIと量子アルゴリズムを活用して分子の挙動を予測し、創薬を加速する技術スタック「AQBioSim」を2023年に提供開始。サノフィも関心を示し、2024年10月に提携している。規制の分野では、米ウィーブがライフサイエンス業界向けの規制AI自動対応ツールを開発しており、2024年に提供開始したプラットフォーム「AutoIND」の活用により、IND(治験届)申請スケジュールを最大70%短縮できるとしている。

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