- 政府の個人情報保護委員会は、AI開発における学習データについて、人種や信条などの「要配慮個人情報」の取得に本人の同意を不要とする検討に入った。
- AI事業者が膨大なデータを利活用しやすくすることが狙いで、個人特定につながりにくい分析用データに限定される見込み。
- 一方で、情報漏洩時の課徴金制度導入も検討されているが、経済界などからの反発もあり、法改正の行方は不透明である。
政府の個人情報保護委員会は、人工知能(AI)開発で用いる学習データに関して、個人情報保護法のルール改正案の検討に入った。「人種」や「信条」といった、通常は本人の同意が必要とされる「要配慮個人情報」についても、AI開発など統計作成を目的とする場合は、原則として本人の同意を不要とする方針だ。これは、AI事業者が膨大なデータを利活用しやすくし、新たな産業の創出・発展を促進する狙いがある。
要配慮個人情報の取り扱い緩和と背景
現行の個人情報保護法は、人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴などを「要配慮個人情報」と規定し、取得には本人の同意が原則必要である。AI開発では、予測・分析の精度向上のために膨大なデータを学習させるが、これに要配慮個人情報が含まれる場合、事業者は本人の同意を取り付けたり、情報を削除したりといった対応が求められてきた。実際、個人情報保護委員会は2023年6月、生成AI「ChatGPT」を開発したOpenAIに対し、本人の同意なく要配慮個人情報を収集しないよう注意喚起を行っている。
しかし、事業者からは、大量のデータの中から要配慮個人情報を探し出し、必要な措置を講じることは「現実的ではない」との声が上がっていた。こうした指摘を踏まえ、個人情報保護委員会は、AIの学習データとして分析結果の獲得と利用のみを目的とする場合、個人の権利や利益が侵害される恐れは少ないと判断し、同意を不要にできるという見解に至った。
課徴金制度の検討と法改正の行方
今回の法改正案では、AI開発における個人情報活用の要件緩和と同時に、情報漏洩時の課徴金制度の導入も検討されている。現行法は3年ごとの見直しが定められており、林芳正官房長官は「個人の権利利益の保護と個人情報の利活用のバランスを図りつつ検討が進められている」と述べている。
しかし、課徴金制度の導入に対しては、自民党の一部や経済界から、企業が萎縮し自由な経済活動を阻害しかねないとの根強い反発がある。政府は要配慮個人情報の要件緩和や課徴金制度などを盛り込んだ改正案を、早ければ今国会への提出を目指しているが、経済界の反発もあり、その先行きは不透明な状況だ。
引用元:
- 時事ドットコム:「人種・信条」AI活用に同意不要 個人情報保護の要件緩和―政府検討
- 日本経済新聞:AI開発向け個人情報、本人同意求めず 政府が法改正準備