- 日本マイクロソフトの西脇資哲氏が、「Japan IT Week 春 2025」での講演で、日本企業におけるAI活用が十分に進んでいない現状を指摘した。
- その主な理由として、「生成AIに完璧さを求めすぎる」期待値の不一致と、「AIとのやり取りが平均1.2ターンで終わる」会話の不足を挙げた。
- 西脇氏は、AIを単なるツールではなく「協働のパートナー」として捉え、テクノロジーではなく「人間の会話力」を高めることがAIを使いこなす鍵だと提言した。
- AIエージェント化など技術進化は続く中、企業はAI導入を「人材戦略」として捉え、人間とAIが協働する働き方への転換が求められている。
日本企業のAI活用、何が足りないのか?
2025年4月に開催された「Japan IT Week 春 2025」において、日本マイクロソフト業務執行役員・エバンジェリストの西脇資哲(にしわき もとあき)氏が講演を行った。その中で西脇氏は、生成AIからAIエージェントへと進化するAI技術の現状に触れつつ、特に日本企業におけるAI活用が必ずしも十分に進んでいない現状について言及した。
西脇氏は、「AIが人の仕事を奪う」という懸念よりも、「AIを使いこなせる企業や人に仕事を奪われる可能性が非常に高い」と警鐘を鳴らした。そして、日本企業がAIをうまく使いこなせていない主な理由として、二つの点を挙げている。
「期待値の不一致」と「会話の不足」
一つ目の理由は「期待値の不一致」である。西脇氏によると、日本人は生成AIに対し100%の完璧さを求めがちだという。AIが期待通りの完璧な回答を最初から出せない場合、「まだビジネスでは使えない」と短絡的に評価を下してしまう傾向がある。しかし、AIは人間と同様に、対話を重ねることでより質の高い回答を生成できるようになる。
二つ目の理由は「会話の不足」である。西脇氏が約2年間、生成AI導入プロジェクトに携わった中で得た知見として、日本人のAIとの平均的な会話ターン数はわずか1.2ターンだという。つまり、ほとんどのケースで一度質問をして回答を得たらそれで終了してしまう。一方、研究によると、AIとのやり取りを4〜5回重ねることで、回答の質が飛躍的に向上することが分かっている。
西脇氏は、AIに最初から100%を求めるのではなく、「一緒に100%に近づけていく」というイメージで使うべきだと強調した。AIを使いこなせるかどうかの差は、テクノロジーの差ではなく、「人間の会話力の差」であると指摘している。AIとのコミュニケーションは、特別な構文や形式ばった表現は必要なく、同僚と話すときのような自然な会話で十分であり、場合によってはAIにプロンプト自体を考えてもらうといった発想も有効だとした。
AI導入を「人材戦略」として捉える
AIを最大限に活用するためには、すべてをAIに任せるのではなく、協働のパートナーとして位置づけることが重要であると西脇氏は語った。そして、AI導入は単なる「テクノロジー戦略」ではなく、従業員全体の能力を底上げする「人材戦略」として捉えるべきだと提案している。
マイクロソフトのCopilotなどのツールは、日常業務アプリケーションとシームレスに連携し、セキュリティリスクを抑えつつAIを活用できる環境を提供する。これにより、AIが定型的・退屈な作業を代行し、人間がより創造的な仕事に集中できるようになるという展望を示した。
AIエージェント化による実践的活用法と未来
AIは識別、理解、予測、生成といった機能から、私たちの代わりに推論し行動する「AIエージェント」へと進化している。西脇氏は、AIエージェントの実践的な活用法として、会議の効率化(議事進行、同時通訳など)、創造的思考の拡張(ブレインストーミング支援)、社内外の情報に基づくリサーチ自動化、コンテンツ制作の革新(プレゼン作成、翻訳・要約)といった具体例を紹介し、これらがビジネス現場に大きな変化をもたらす可能性を示唆した。
講演の最後には、AIが物理世界と融合し、ロボットなどを通じて身体的な作業も担う「フィジカルAI」の時代が到来するという未来像も提示された。AIの進化は止まらず、退屈な作業から人間を解放し、創造力を最大限に発揮できる未来が来る。その新しいAI時代に乗り遅れないためには、技術に尻込みせず、AIとの対話を積み重ね、パートナーとして協働する人間の側の姿勢こそが重要であると西脇氏は締めくくった。
引用元:ライフハッカー・ジャパン
「AIに100%を求める」から失敗する。マイクロソフト西脇資哲氏が語る、AIと自然に協働する働き方