映画「岸辺露伴は動かない」劇伴制作元、AI利用で異例の長文声明発表、「違法性なし」と新表現追求を強調

Music AI

  • 映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」の劇伴を手掛けた「新音楽制作工房」は6月14日、AI活用に関する1万6000文字超の声明を発表した。
  • 声明では、音楽生成AIに法的違法性はなく、既存の訴訟問題も「チンピラの因縁」にすぎないと強く主張。
  • AIは「新たな表現領域の追求」のためのツールであり、コスト削減や既存作品の剽窃が目的ではないと明言した。
  • AI活用を巡る賛否の議論に対し、音楽技術の歴史における革新の受容を訴え、理解を求めている。

映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」の劇伴制作でAI技術を導入した作曲家・菊地成孔氏率いる「新音楽制作工房」は、SNS上で巻き起こった賛否の声に対し、6月14日に異例となる1万6000文字を超える長文の声明を公表した。この中で、AIを制作に取り入れる目的や理由を詳細に説明している。

音楽生成AIの「合法性」を主張

声明はまず、音楽生成AIの利用に「全く違法性はない」との見解を提示した。「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律案」(AI推進法)の成立以前や、主要な音楽生成AIサービス「Suno」「Udio」が日本で提供を開始した時点から、状況に変化はないと指摘している。

また、SunoとUdioが全米レコード協会(RIAA)から著作権侵害で訴えられている件についても、「『訴訟されている会社=違法を犯している会社=はいブラックねー』という短絡的な見方はチンピラの因縁に過ぎない」と強く反論した。

「音楽表現のネクストレベル」へ、AIは表現拡張のツール

新音楽制作工房は、AI利用の核心をなす4つのステートメントを表明した。

  1. 楽器からAIまで、あらゆる音楽技術を等しく活用し、「音楽表現のネクストレベル」を目指すこと。
  2. 同グループはAI専門の集団ではなく、オーケストラからアコースティックまで、局面に応じて多様な手法を用いる「ミクスチャー集団」であること。
  3. 音楽生成AIに法的違法性はなく、悪用もしないこと。
  4. 問題視すべきはAI成果物の審美的評価のみであり、音楽技術がクリエイティビティを拡張する可能性が圧力によって阻害された例は音楽史上存在しないという認識を示すこと。

同工房では、AIのほかにもMIDIを中心としたDAW(音楽制作ソフトウェア)などを状況に合わせて使用しており、AIはあくまで制作ツールの一つであるという認識を示している。AIを使う目的は「インスタント・ツールでもイージー・ツールでもない」とし、「AI使用でしか成し得ない、新たな表現領域の追求」にあると強調した。

「コスト削減・剽窃目的ではない」と明言

声明では、AIを用いて既存アーティストの声や楽曲に似せた曲を生成するような「明らかな怠慢や剽窃(ひょうせつ)」は行わないと否定した。また、「コストカットや雇用の削減」のためにAIを使っているわけではないと説明している。ただし、「音楽生成AIがコカインほどの違法性を持つに至れば、使用は中止する、というか、したくてもできなくなるだろう」とも付記した。

同工房は「いかなる道具であれ、悪用しようと思えば画鋲一つでさえかなり悪用できる」と指摘。音楽テクノロジーが創造性を拡張する可能性が、何者かの圧力によって潰されたり、その発展が停止したことは、音楽の歴史において一度もないという見解を重ねて示した。

「MIDI狩り」の歴史に重ね、技術革新の受容を訴え

音楽生成AIを巡る訴訟や議論に関連し、声明は過去の音楽制作技術の歴史にも触れている。例えば、MIDIは法的な訴訟はなかったものの、「中小規模の私刑ともいえる『MIDI狩り』が存在した」と指摘。さらに、録音した音を編集・再生するサンプラーなども、裁判沙汰になるか否かは別として、個別にもめては法整備が進むという反復を繰り返してきたと説明し、技術革新が常に社会的な議論や摩擦を伴いながら発展してきた歴史を示唆した。

「新音楽制作工房」は、ドラマ「岸辺露伴は動かない」シリーズおよび映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」から劇伴制作を担当。「岸辺露伴は動かない 懺悔室」では、既成曲を除く全曲でAIを活用したことを以前から明言していた。映画公開直後、SNS上では劇伴のAI活用について「実験的でクリエイティブ」といった肯定的な反応とともに、「AIを使っているなら見に行かない」といった批判的な声も上がり、大きな賛否を巻き起こしていた経緯がある。

訴訟されているAI音楽サービスを使用するのは悪なのか

筆者は、AI音楽に対する「悪」というレッテル貼りは、早計な判断だと考えている。訴訟中のサービス利用が悪とは限らず、AIはあくまでツールである。生成された音楽が既存曲と「完全に一致」すれば著作権侵害だが、「似ている」だけの曲は人間が作る音楽にも多く存在する。AIが大量のデータを学習する以上、似たパターンが出力されるのは自然なことと言える。重要なのは、その類似度が著作権法の「創作的表現」の範囲を超えているか否かの判断だと思う。AI音楽サービスの使用自体や、それによって生成された似た音楽の利用自体に、現時点で明確な違法性はないと言える。AIはクリエイティビティを拡張する可能性を秘めており、感情論で否定するのではなく、その技術と倫理・法的な課題を冷静に議論し、健全な共存を探るべきだと私は確信している。

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