日本初のAI法が成立:開発促進と安全確保の両立へ、国に調査権も付与

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  • AIの開発促進と安全確保を両立させることを目指す「AI関連技術の研究開発・活用推進法」が5月28日に参議院本会議で可決・成立した。
  • 日本初のAI関連法規として、首相が本部長を務めるAI戦略本部を設置し、研究開発の基本計画を策定するなど、AIの利活用推進と国際競争力向上を盛り込んだ。
  • AIによる人権侵害や悪用リスクに対応するため、国が調査権を持ち、事業者に指導や助言を行う権限を持つ一方、事業者への罰則は見送られたため、実効性が今後の課題となる。
  • 日本はAI利用率や民間投資で他国に遅れを取っている現状を踏まえ、欧州の規制重視や米国の開発重視とは異なる、イノベーション促進とリスク対応のバランスを図る姿勢を示している。

日本初のAI法が成立:促進と安全の両立を目指す

人工知能(AI)の開発促進と安全確保を両立させることを目指す「AI関連技術の研究開発・活用推進法」が、5月28日の参議院本会議で可決・成立した。これは日本がAIの開発促進や規制に関して国内法を整備する初めての試みとなる。新法はAIを「安全保障上重要な技術」と位置づけており、その利活用の推進と国際競争力の向上を掲げている。

新法の成立に伴い、政府は全閣僚で構成され、首相が本部長を務める「AI戦略本部」を司令塔として設置する。この本部は、AI技術の適正な研究開発や活用を図るための基本計画を策定し、日本のAI分野における国際競争力向上を目指す。

日本のAI戦略と現状の課題

政府が新法でAIの利活用を前面に出した背景には、日本がAI分野で国際的に遅れをとっているという強い問題意識がある。総務省が発表した2024年度版の情報通信白書に掲載されたアンケート調査によると、日本の個人の生成AI利用率は9%に留まり、中国の56%や米国の46%と大きな差がある。また、業務で生成AIを利用している企業の割合も5割に満たず、米国の85%や中国の84%を下回っている。米スタンフォード大の調査では、2023年のAIへの日本の民間投資額が7億ドル(約1050億円)であったのに対し、米国は672億ドル、中国は78億ドルと、顕著な開きがあることが示されている。

AIのリスク対応と国の調査権限

その一方で、生成AIの急速な発展に伴うリスクも浮上している。サイバー攻撃、詐欺などの犯罪への悪用や、AIで本物と酷似した画像や動画を作成する「ディープフェイク」による偽・誤情報の拡散などが問題視されている。新法では、AI関連技術の研究開発や活用によって国民の権利侵害が生じた際、国がこれを分析し、対策を検討すると定めている。具体的には「指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる」と明記され、不正な目的や不適切な使用方法に目を光らせる姿勢を示している。

悪質かどうかの調査はそれぞれの分野の所管省庁が担う方針であり、その判断基準は新法施行後に策定される基本計画で示される予定だ。著しい人権侵害が確認された場合、開発事業者や活用事業者を公表することが可能になる。しかしながら、事業者への直接的な罰則は見送られたため、その抑止の実効性については今後の課題として指摘されている。衆参両院の委員会では、AI技術を悪用した「性的ディープフェイク」への対策や、国の指導や助言に応じない事業者への措置のあり方を検討することなどを求める付帯決議も可決されている。

国際動向との比較と今後の展望

世界の主要国・地域もAIの活用推進とリスク対応に関する制度づくりを進めている。欧州連合(EU)は2024年にAI規制法を発効させ、生成AIの提供企業にAIで作成された内容であることを明示させるなど、透明性の義務を課し、違反事業者には巨額の罰金を科すなど規制色が強い。一方、米国は開発促進に重点を置いており、トランプ前政権による事前の安全評価義務付けを求める大統領令をバイデン政権が撤回するなど、規制緩和の動きが見られる。日本はこれまでガイドラインなどの順守による企業の自主性を尊重してきたが、今回初めて法規制に踏み込んだ。日本政府は、林官房長官が「イノベーションの促進とリスクへの対応を同時に進めることが重要だ」と述べたように、米欧の動向も見ながら、イノベーション促進とリスク対応のバランスを図ることを目指している。政府は今年夏ごろまでにすべての閣僚によるAI戦略本部を設置し、基本計画の内容などについて検討を進める方針だ。

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