AIオプトアウトに意味はあるのか – OpenAIやGoogleが英国提案に反対、専門家が実効性に疑問符

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  • OpenAIとGoogleが英国政府のオプトアウト制度導入提案に反対を表明している
  • 音楽業界専門家が「オプトアウトは幻想、実際には機能しない」と指摘
  • 個人データの影響力は微細だが、文化形成への参加選択としての意味を持つ
  • AI企業によるデータ収集は既に完了、事後的なオプトアウトは限定的効果

OpenAIとGoogleが英国のオプトアウト提案を拒否

4月、英国政府が検討している「権利者がオプトアウトしない限りAI企業が許可なしでコンテンツをAIモデルトレーニングに利用することを認める」という著作権法改正提案に対し、AI業界最大手のOpenAIとGoogleが強い反対姿勢を示した。

OpenAIは英国議会の科学・イノベーション・技術委員会に対し、「現状のオプトアウトシステムには明確でスケーラブルな技術標準がないため、どのオプトアウトシステムが有効であるかについて不確実性が生じており、AI企業と権利者の両方に不利益が生じる」と指摘。さらに「英国政府が取れる選択肢は明確で、教育や科学、医療のブレークスルーを達成するのに役立つ政策を採用してイノベーションを促進するか、今回のオプトアウト要件を採用してAI分野でのリーダーシップを他国に譲るか」と二者択一を迫った。

Googleも「権利者がオプトアウトした場合でも、すでにモデルのトレーニングに使用されている場合は必ずしも権利者に利益が生まれるわけではない」と批判し、過度な透明化要件がAI開発を妨げる可能性を警告している。

音楽業界が示すオプトアウトの現実

ロンドンで開催された国際音楽ビジネスカンファレンス「Music Ally Connect」では、AI搭載音楽ソフトウェアを手がけるマッチチューンのヴィルジニー・ベルジェ氏(チーフ・ビジネス・ディベロップメント&ライツ・オフィサー)が「オプトアウトは幻想だ。実際には機能しない」と断言した。

同氏は大手テック企業が既に全ての音楽を調べ尽くした上、アウトプットからインプットを見つけることができないため、「実際、ライセンス供与はできないと思う」と述べている。ユニバーサル ミュージック グループ(UMG)のクリス・ホートン氏(ストラテジック・テクノロジー担当シニア・バイスプレジデント)もこの見解に同意を示した。

フランス著作権団体のSACEM(サセム)のジュリアン・デュモン氏(開発・フォノ・デジタル担当ディレクター)は、「ライセンスを取得しようとしている企業は多いが、SunoやUdio、OpenAIといった大手は異なる」との考えを示している。

個人データの影響力と文化への参加選択

WIREDの分析によると、個人データのAIモデルへの影響は「1,000階建てのビルの壁に積み上げられたレンガのひとつ」程度に過ぎないとされる。データ収集はAIモデル構築の一段階であり、研究者による数カ月の微調整、低賃金労働者によるデータセット分類やアウトプット品質測定を経て、個人の影響はさらに薄まっていく。

しかし一方で、これを選挙における投票行動と比較した場合、米国大統領選挙では何百万もの票が投じられるが、すべての票に価値があると考えられている。同様に、耳障りな雑音の中で囁かれる小さな声でも、結果としてできあがるAIモデルには影響力を持つ可能性がある。

特に、鋭い洞察力や独自の情報アプローチは、AI研究者にとって比類ない価値を持つ。メタ・プラットフォームズが新しいAIモデルのトレーニングに書籍データセットを使用していることからも、古いありふれたデータだけでは不十分であることが分かる。

合成データ時代におけるオプトアウトの意味

未来のAIモデルに対する個人データの真の影響は、「合成(シンセティック)」データへの刺激という形を取る可能性が高い。生成AI企業が高品質な情報に事欠くようになると、ウロボロス期に入る。生成AIを使って人間のデータを模倣し、それをシステムにフィードバックすることで次世代のAIモデルをトレーニングする状況が到来する。

現実的には、過去にネット上に投稿したものはすべて、生成モデルの中に取り込まれたと考えて間違いない。シリコンバレーの無数のスタートアップ企業を率いる大胆不敵な若者たちは深く考えることもなく、プラットフォームへの投稿からデータをかき集めている。

オプトアウトは長期にわたって存在し続ける可能性のある文化の一部にはならないことを積極的に選択することを意味する。人間である限り、生成AIが存在する限りは常に、そのマシンの小さな一部分になる──個人の意志とは関係なく。

技術的課題と国際協調の必要性

著作権のある素材にデジタル透かしを入れる法案も検討されているが、先進国の大手AIが従っても、たとえば中国DeepSeekがそれに従わない可能性も高い。

英国政府のこの提案には記事作成時点で1万1,000件以上の回答が寄せられており、複数のクリエイターや議員からの反対の声が上がっている。科学・イノベーション・技術委員会の広報担当者は「これらの企業からの回答を慎重に検討しており、これからもテクノロジー企業やクリエイティブ業界、議会と積極的に関与していく」と述べている。

引用元:WIRED Japan、GIGAZINE、Musicman
AI訓練データからオプトアウトするのは意味があるでしょうか?|The Prompt
イギリス政府による「権利者がオプトアウトしない限りAI企業が許可なしでコンテンツをAIモデルトレーニングに利用することを認める」という提案をOpenAIとGoogleが拒否
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