- 「Mistral AI」は、OpenAIなど世界の主要AI企業に対抗する、フランスを代表するAIスタートアップである。
- 同社のAIチャットボット「Le Chat」はモバイルアプリ公開からわずか2週間で100万ダウンロードを突破するなど、急速にユーザーを獲得している。
- 最新モデル「Mistral Medium 3」は、高い性能をフラッグシップ級モデルとしては業界最安水準の推論コストで提供することを強みとしている。
- オープンソース戦略と企業向け商業展開を両立させ、欧州のデータ規制にも準拠可能な点を活かし、グローバル市場での地位確立を目指している。
フランス生まれ、世界を目指すAIスタートアップ「Mistral AI」
人工知能(AI)分野ではアメリカの企業が先行する中、ヨーロッパ、特にフランスから注目すべきAIスタートアップが登場している。「Mistral AI(ミストラルAI)」がその筆頭であり、OpenAIなど世界のAI大手に対抗する存在として期待されている。2023年に設立されたMistral AIは、「最先端AIを誰もが利用できるようにする」という目標を掲げ、短期間に多額の資金を調達し、急成長を遂げている。
Mistral AIは、これまでに約10億ユーロ(約1,560億円)の資金を調達しており、その企業評価額は約60億ユーロ(約9,000億円)に達するとされている。創業メンバーには、GoogleのDeepMindやMetaといった主要テック企業でAI研究を行っていた経験を持つ人物が名を連ねており、その技術力への期待の高さがうかがえる。同社は、将来的な株式公開(IPO)を計画している。
急速に広がるAIチャット「Le Chat」
Mistral AIの代表的なプロダクトが、AIチャットボットの「Le Chat(ル・シャッ)」である。この「Le Chat」は、Webブラウザに加え、iOSおよびAndroid向けのモバイルアプリとしても提供されている。モバイルアプリがリリースされると、その人気は急速に拡大し、わずか2週間で100万ダウンロードを突破した。特にMistral AIの本拠地であるフランスでは、iOS App Storeの無料アプリランキングで首位を獲得するなど、大きな注目を集めている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も公に「Le Chat」の利用を推奨するなど、国産AIへの期待がうかがえる。
「Le Chat」には無料で利用できるプランのほか、月額14.99ドル(約2,250円)の有料プラン「Pro」が提供されており、最高性能のモデルへのアクセスや高い利用制限などが特徴となっている。また、企業向けには「Le Chat Enterprise」というサービスも展開しており、社内ドキュメントとの連携機能や、特定の環境(オンプレミスなど)への導入が可能である点が、競合サービスとの差別化ポイントとなっている。
Mistral「Le Chat」はスピードが速い
フランスでは一定の認知を得ているMistralの「Le Chat」ではなるが、日本国内での認知は現状でほとんどないと言える。ChatGPTやGeminiを使いこなすAIアーリーアダプターと呼ばれる層でさえ、ほぼ認知できていないかもしれない。他社に比べて後発となったが故に、日本での認知拡大には大きな障壁があるかもしれない。
そんなMistralのチャットボット「Le Chat」は何がすごいのか、といったポイントで最も注目すべき点は会話のスピードにある。
動画では「Pythonでスネーク・ゲームのコードを書いて」と指示を送り、MistralのLe Chat、AnthropicのClaude、OpenAIのChatGPTにコードを作成させる様子を比較している。注目すべきはそのコード生成速度である。Le Chatはあっという間にコードを生成するが、他社AIでは生成までに少しの時間を要しているのがわかる。
もちろん、依頼するプロンプト内容によって結果は異なる可能性があり、数か月前の比較であるため、現状のモデルパフォーマンスとは異なっている可能性もある。使用した各AIのバージョンも不明であるため、同等の条件下で比較しているかはわからない。これは一つの事例にすぎないが、MistralのLe Chatが処理能力においてかなり高速に処理を行うことが期待できると言える。
高性能と低コストを両立するモデル戦略
Mistral AIの強みの一つは、自社で開発する高性能な大規模言語モデルにある。特に、2025年5月7日に発表された最新のフラッグシップモデル「Mistral Medium 3」は注目されている。このモデルは、OpenAIのGPT-4oやMetaのLlama 4 Maverickといった最先端モデルと比較しても性能面で優れるベンチマーク結果を示しており、特にソフトウェア開発や数学、物理などの専門分野で高いパフォーマンスを発揮するという。最大128kトークンという長い文脈を理解でき、画像入力にも対応するマルチモーダル設計となっている。
さらに「Mistral Medium 3」は、その高い性能にもかかわらず、推論コストが低いことが大きな特徴である。公開された価格は、入力トークン100万あたり0.40ドル(約60円)、出力トークン100万あたり2.00ドル(約300円)とされ、現行のGPT-4o APIの5分の1以下の水準を実現していると主張されている。性能とコストのバランスを重視する企業にとって、魅力的な選択肢となりうるだろう。
オープン戦略と広がる企業向け展開
Mistral AIは、すべてのモデルを公開しているわけではないが、一部のモデルについてはオープンソースとして公開する戦略をとっている。これにより、技術の透明性を高めると同時に、開発者コミュニティからのフィードバックを得てモデルの改善につなげている。一方で、高性能なプレミアムモデルや「Le Chat」の有料プラン、企業向けソリューションを通じて収益化を図り、商業展開を本格化させている。
Mistral AIのモデルは、API経由での利用に加え、Amazon SageMakerなどの主要クラウド基盤や、セキュリティ要件の高い企業向けのオンプレミス環境にも導入可能であるなど、柔軟な展開選択肢を提供している。これは、欧州を拠点とする企業として、EU域内のデータ規制などへの対応力をアピールする上でも強みとなる。
フランス国内では、AI分野への大規模な投資が進められており、これによりMistral AIのようなスタートアップの成長を後押しするエコシステムが形成されつつある。また、Microsoft、フランス軍、IBM、Stellantis(自動車大手)、Helsing(防衛技術)など、多様な分野の企業や組織と戦略的パートナーシップを締結し、技術の実装や共同開発を進めている。
今後の展望
Mistral AIは、高性能なAIモデルを低コストで提供し、オープン戦略と商業展開を組み合わせることで、世界のAI市場における独自の地位確立を目指している。今後も新たなモデルの投入を予告しており、AIモデル市場の競争はさらに激化すると見られる。企業価値がすでに高く評価される中で、今後の収益成長と市場シェア拡大が、Mistral AIの将来を占う上で重要な鍵となるだろう。
引用元:TECH CANVAS
Mistral Medium 3、業界最安水準でフラッグシップ級性能を実現
引用元:TECH CANVAS
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Mistral社AI「Le Chat」が2週間で100万ダウンロードを突破
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Mistral、商業展開を本格化—オープンソースAIモデルで市場を開拓
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