- 米Metaが欧州経済領域(EEA)のユーザーデータをAIモデルの訓練に再利用する計画に対し、オーストリアのプライバシー保護団体NOYBが異議を唱え、集団訴訟を示唆している。
- 主な争点は、Metaがユーザーデータの処理根拠とするGDPR上の「正当な利益」に対し、NOYBが明示的な「オプトイン」同意が必要だと主張している点だ。
- NOYBは、「忘れられる権利」などGDPRの権利への対応が困難になる可能性や、オープンソースモデル利用によるデータ削除の難しさも問題視している。
- MetaはEDPBの見解に基づき手法の適法性を主張し、ユーザーには異議申し立ての方法を提供していると反論している。
MetaのAI訓練用データ利用計画に反発
米Metaは、欧州経済領域(EEA)のユーザーデータを人工知能(AI)モデルの訓練に利用する試みを進めているが、これに対し欧州のプライバシー保護団体から強い反発に直面している。特に、オーストリアの非営利団体NOYBはMetaに対する新たな異議申し立てを行い、集団訴訟に発展する可能性を示唆している。
Metaは昨年6月にEEAでのAIトレーニングを一時停止していたが、先月、成人ユーザーが投稿・コメントした公開コンテンツや、自社AIチャットボット「Meta AI」とのやり取りを再びAI訓練に使用する計画を発表した。これに対し、アイルランドのデータ保護当局からの懸念や域内各地からの苦情を受けていた。
「正当な利益」か「明示的な同意」か:GDPR巡る対立
NOYBが最も強く異議を唱えているのは、メタがユーザーデータのAI訓練利用における法的根拠として、EU一般データ保護規則(GDPR)が定める「正当な利益」を主張している点である。NOYB代表のマックス・シュレムス(マックス・シュレムス)氏は、欧州司法裁判所がすでにメタのターゲティング広告について「正当な利益」の主張を認めていないことを指摘し、AI訓練のためにすべてのデータを吸い上げることに正当な利益があるはずがないと批判している。
NOYBは、メタはユーザーから明示的な同意(オプトイン)を得るべきであり、現在メタが採用している、データ利用に同意しない場合にユーザーが自ら拒否する「オプトアウト」のシステムはGDPRに違反すると主張している。シュレムス氏は、これはメタが「自社の金儲けのほうがユーザーの権利より重要だと言っているだけだ」と厳しく非難した。
その他のプライバシー懸念とMetaの反論
NOYBはさらに、メタがAI訓練にユーザーデータを使用することで、GDPRが個人に認めた「忘れられる権利」や「不正確なデータの訂正権」「データへのアクセス権」といった権利に対応できなくなる可能性があるとも指摘している。加えて、メタが一部のAIモデルをオープンソースとして公開しているため、一度公開したモデルから特定のユーザーデータを削除したり、モデルを更新したりすることが不可能になるという問題も提起している。NOYBは、メタがターゲティング広告のために明示的な同意に転換せざるを得なくなった過去の経緯を引き合いに出し、他のAI企業がSNSデータを用いずに優れたモデルを開発している例もあるとして、メタのデータ収集の必要性についても疑問を呈した。
これに対しメタは、NOYBの見解は「事実と法律の両方において誤っている」と反論している。メタは、自社のアプローチは欧州データ保護会議(EDPB)が示したガイダンスに準拠していると主張しており、昨年2月にEDPBが示した見解によって、以前からのアプローチが法的義務を満たしていることが認められたと述べている。メタの広報担当者は、EUのユーザーに対し、AIモデル訓練への個人データ使用に異議を唱える明確な方法を提供しており、メールやアプリ内通知でその旨を伝えているとした。また、NOYBの行動は「EUにおけるAIイノベーションを遅らせようとする、声高かつ一部の活動家グループによる試み」であり、最新技術から利益を得られるはずの消費者や企業に害を及ぼしていると批判した。
AI技術の進展と個人データ保護を巡るこの対立は、今後欧州におけるAI開発とプライバシールールのあり方に影響を与える可能性がある。NOYBが集団訴訟に踏み切るかどうかが今後の焦点となる。
引用元:Forbes JAPAN公式サイト
メタ「AIの訓練」に欧州の非営利団体が反発、集団訴訟の可能性